社労士/社会保険労務士鈴木労務経営事務所(東京都新宿区)

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傷病手当金について

■傷病手当金とは

傷病手当金従業員に対して支給される社会保険給付には様々なものがありますが、中でも、従業員・経営者ともにメリットが高い割に、中小企業の現場において、あまり利用されていないと思われるのが、健康保険による「傷病手当金」です。

傷病手当金とは、従業員が、業務外のケガや病気により働けない状態になった場合に、その間の生活保障として健康保険から支給される給付です。

傷病手当金が支給されるための要件は、[1] 仕事中以外のケガや病気で働けない状態になったこと(※注) [2] 会社を3日連続で休んだこと [3] その間の賃金がカットされていること、の3つだけです。

(※注)
“仕事中”のケガや病気の場合は、労災保険から、より手厚い給付が支給されます。

また、働けない状態とは、必ずしも寝たきりの状態を指すわけではなく、通常担当している業務を遂行できない程度の状態も含みます。例えば、非常に細かい手作業を担当している職人さんが指先を負傷したり、普段走り回っている営業マンが足を負傷すれば、それは労務不能ということができます。

したがって、極端な話、風邪をこじらせて会社を1週間休んだような場合であっても、労務不能と認めた医者の証明さえもらえれば、傷病手当金は支給されます。
 
支給金額は、各従業員の標準報酬によって決定され、各人の通常の賃金1日分の2/3が、休業4日目から1日単位で支給されます(社会保険料が高い従業員は、その分だけ支給額も多くなるという、民間の保険と同じような仕組みです)。

例えば、月給30万円の従業員が、休みの日に大ケガをして会社を1ヶ月間休んだ場合、約20万円が国から支給されます(民間の医療保険からも給付を受ける場合も一切減額されません)。

なお、支給期間は、最大「1年6ヶ月」ですが、これはそのケガや病気についての上限であり、個人についてということではありません。したがって、新たなケガや病気については、またそこから1年6ヶ月支給されます。

<参考> 国民健康保険と健康保険の給付の違い
平成15年4月から健康保険の病院での窓口負担が「3割」になったことで、国民健康保険と健康保険の給付に差が無くなったようにいわれることがあります。

しかしながら、両者の決定的な違いこそが、この「傷病手当金」です(他には、「出産手当金」という女性だけの給付があるのと、死亡した場合の葬式代の支給額がちょっと高いだけです)。
 
自営業者等が加入している国民健康保険は、所得保障にあたる給付が一切無いのに比べて、サラリーマンや会社役員が加入する健康保険は、この部分が大いに恵まれています。

なお、民間の医療保険とは異なり、傷病手当金をいくら受給したとしてもその後の保険料には一切影響ありません。

■傷病手当金の活用

私が知る限り、各企業においてこの給付が充分に活用されているとは思えず、そもそも、この給付の存在すら知らない社長さんもいるようです(仕事中のケガであれば国から給付が出るということは、どの社長さんもご存知なのですが、例えば「休みの日にスキーに遊びに行って足を折った場合」でも国からお金が支給されるということがどうも受け入れられないようです)。

上記のように支給要件は緩いので、申請すれば受給できるというケースは多々あるのに、申請していないためにそのままになっている場合も多いのです。

また、大企業などでは、従業員が休職中でも一切給与カットせずに賃金を支払っている会社も多いようですが、この場合は、給与がカットされていないため傷病手当金は支給されません。

一方で、中小企業においても、休職中の給与がゼロでは生活費の面で困るだろうという配慮から、満額とはいかないまでもある程度の給与を支給しているところもあります。

さて、ここで注意すべきなのは、傷病手当金は、会社が支払った給与額が通常の給与の2/3に満たない場合のみ、その差額だけが支給されるということです。

したがって、例えば、通常の半額の給与を支給した場合、約16%(66%−50%)だけが傷病手当金として支給されることになります。

つまり、会社が恩恵的に給与を支払う場合、その額が2/3未満であれば、いくら会社が負担しようと、結果的に本人の懐に入るお金は1円も変わらないということになります(もっといえば、傷病手当金は非課税のため、同じ金額を給与として貰うよりも傷病手当金として貰ったほうが実際の手取りは多くなります)。

「トータルで2/3あれば生活できるでしょ」ということでその分だけ給付が減らされてしまうわけです。せっかく従業員の生活費を心配して会社のお金を使っても、これでは意味がありません。

(なお、2/3以上の給与を支給する場合は、傷病手当金は支給されませんが、従業員側としては手取りが増えるので、その分での意味はあります。ただし、人件費としての効率性は著しく落ちます)

結論として、たとえ長期間の休職であっても、休職中は全額欠勤控除により給与ゼロとして、国もしくは健保組合から満額の傷病手当金を貰うのが得策であるということになります。

なお、これは非常に重要なことなのですが、傷病手当金は退職後も継続して受給することが可能です(所定の要件はあります)。休職期間を与えて様子を見たものの、職場復帰のメドが立たず、やむをえず退職してもらう場合には、退職後の所得保障があることを本人に説明することで、より本人の納得を得やすくなるでしょう。

ちなみに、傷病手当金は代表者を含む役員にも支給されますので、傷病手当金は従業員にとってだけでなく経営者にとってもいざという時のために非常に心強い給付です(役員の場合、年金事務所や健保組合によっては支給に難色を示すことがありますが、株主総会によって役員報酬の停止決議がされていれば、法的には傷病手当金を受給することは可能です)。

このように考えると、従業員に支給される傷病手当金は、実は、会社にとっても非常に大きなメリットがあることが分かります。これまで、傷病手当金を全く利用していなかった会社も、従業員が休業される際はこういう給付があるということをぜひ頭に入れておくべきでしょう。

退職後の傷病手当金
退職後の傷病手当金は、平成19年4月の法改正により、大きく変わりました。
以前は、退職後に傷病手当金を受給する方法は「任意継続被保険者として傷病手当金を受給する」「資格喪失後の継続給付として傷病手当金を受給する」という2通りの方法がありましたが、平成19年4月以降、任意継続被保険者が傷病手当金の支給対象外となってしまいました。
従来は、「被保険者期間が1年に満たない場合でも、2ヶ月以上あれば任意継続被保険者になればいい」「標準報酬が高い人は、任意継続被保険者になると標準報酬が下がり傷病手当金の支給額も下がってしまうため、保険料が任継よりも多少高くても、国民健康保険に加入したほうが得」といった“裏技”もありましたが、平成19年4月以降はこのようなテクニカルな部分はなくなりました。

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