社労士/社会保険労務士鈴木労務経営事務所(東京都新宿区)

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総報酬制について

■総報酬制とは

平成15年4月から、社会保険制度に「総報酬制」が導入されることになっており、最近、新聞やテレビで色々と騒がれております。

総報酬制とは、従来までほぼ毎月の給与からのみ徴収していた社会保険料を、賞与(ボーナス)からも同じように徴収する仕組みになることを意味しています(従来も、賞与からも社会保険料を徴収していたのですが、あくまで毎月の給与とは別枠であり、保険料はタダみたいなものでした)。

つまり、これまでは、同じ年収であっても、賞与の割合が高い人と低い人で社会保険料額に大きな差があったのですが、この不合理を無くそうというのがこの総報酬制の狙いです。

<従来>

  健康保険 厚生年金
毎月の給与 8.5% 17.35%
賞与 0.8% 1%

<今後>

  健康保険 厚生年金
毎月の給与 8.2% 13.58%
賞与 8.2% 13.58%

■総報酬制導入でどう変わるか

さて、総報酬制の導入で、社会保険料はどうなるのでしょうか。
 
社会保険料は会社と本人で折半負担ですので、経営者としては非常に気になる部分ですね。

結論からいいますと、総報酬制の導入後、年間給与に占める賞与の割合が高い従業員は保険料が高くなり、賞与の割合が低い従業員は保険料が安くなります。

それまでほとんど保険料を徴収していなかった賞与からも毎月給与と同額の保険料を徴収するようになるので、当然、保険料が高くなると考えている事業主さんもいるかと思いますが、上記表にあるように、保険料率そのものが従来よりも下がるため、上記のように保険料が上がる人と下がる人に分かれるわけです。

なお、保険料が上がる人と下がる人の分岐点については、下記の式から簡単に導けます。

<参考>
(17.35+8.5)x+(1+0.8)y=(13.58+8.2)x+(13.58+8.2)y
※x=毎月給与、y=賞与とする

この等式を解くと、y≒0.2xとなります。

これにより、年間の賞与額が毎月給与の約2.4ヶ月分以下の従業員については社会保険料が安くなり、逆に、年間の賞与額が毎月給与の約2.4ヶ月分を超える従業員については社会保険料が高くなる(※注1)ことが分かります。

また、yに0を代入して左右を比較すると、賞与を全く支給していない従業員については、実に、6分の1ほども社会保険料が下がることが分かります。したがって、(損金処理できない関係上)基本的に賞与の支給がない「役員」も、同様に社会保険料が大きく下がることになります。

(※注1)
ここでいう「毎月給与の2.4ヶ月分」は、必ずしも俗にいう“(基本給の)2.4ヶ月分”という意味ではなく、あくまで標準報酬月額の〜ヶ月分という意味であることに注意してください(基本給に各種手当や通勤手当を加え、等級表に当てはめて算出した標準報酬月額の何倍かということです)。
基本給連動型の賞与を支払っている会社で、「ウチはボーナスを年4ヶ月出してるから保険料上がるな」と考えた社長さんも、それはあくまで基本給の4ヶ月分ですから、(賞与には残業手当その他手当や交通費がつかないことから)実際には標準報酬の2.4倍もいかずに、社会保険料負担が下がるようなケースも考えられます。

マスコミなどでは、連日、「保険料が高くなる!!」という論調で騒がれているようですが、実際のところ、中小企業では、近年は賞与を支給していないという会社も珍しくなく、そのような会社にとってはむしろ喜ぶべき改正であるといえるのではないでしょうか。

(なお、他の機関の見解の中には、上記の2.4ヵ月分を「3.6ヶ月分」と誤って表記しているものを多く見かけますが、これは厚生年金保険料だけを考えた場合の数字です。そもそも、新しい厚生年金保険料率は、厚生年金加入事業所の年平均賞与額が標準報酬月額の3.6ヶ月分(※注2)という統計から、保険料負担を変動させないように決められています)
 
⇒(17.35%×12+1%×3.6)÷(12+3.6)=13.58%(新厚生年金保険料)
つまり、厚生年金に関しては、政府の意向としては保険料据え置き(健康保険に関しては、完全に保険料引き上げ)

(※注2)
この数字の調査対象は、大企業のみに限定されていたらしく、実際の全厚生年金加入事業所の賞与平均額は3.6ヶ月分よりかなり低く、厚生年金保険料が下がる会社のほうがはるかに多いとのことです。

■総報酬制の注意点

上記のように、総報酬制導入は、基本的に多くの中小企業にとっては社会保険料が下がるという喜ばしい改正ともいえるのですが、この中で注意すべきポイントをあげてみます。

[1] 賞与割合を高くして社会保険料を削減する“裏技”が通用しなくなった

従来の制度では、賞与の割合を高くすることで、年収を変えずに社会保険料を削減することが可能でした。例えば、賞与ゼロの会社であっても、毎月給与を変更後その分を賞与として支給することで社会保険料を削減することができました。

今回の改正により、この方法は使えなくなります(そもそも、この法改正の趣旨が、従来の不公平さを無くすためですので当然といえます)。

したがって、今回の改正で最もダメージを受けるのは、(もともと賞与額の大きい大企業を除けば)この方法で社会保険料を削減してきた中小企業です。私の知る会社で、年間給与のうち半分近くを賞与として支給しているところがありますが、この会社にとっては悪夢のような法改正といえます。

なお、余談ですが、八方塞がりに見える今回の総報酬制にも、盲点というべき部分はあります。それは、総報酬制という呼ばれ方をしていますが、実際は、必ずしも年収をベースに保険料を徴収されるわけではないという点です。あくまで毎月給与と賞与の保険料は別々に徴収され、保険料徴収の対象となる賞与に上限額(※注3)が設けられました。

(※注3)
健康保険は「200万円」、厚生年金は「150万円」を上限とし、それ以上の金額の賞与が1回で支払われた場合は上記の額に対して保険料を徴収される

今後の裏技として考えられるのは、年間賞与額が150万円を超える従業員であればそれを年1回支給にすることで社会保険料を削減することです(中小企業において年間賞与額が150万円を超える従業員はあまり多くないと思いますが)。
 
また、賞与の支給が少ない従業員についても、毎月の給与を下げて、それを賞与に回すことで150万以上の金額を捻出し賞与として一括支給する方法も理論上は可能ではありますが、従業員にも毎月の生活費やローン等がありますので、実際の導入には細心の注意が必要です(下記 [2] [3] の問題も考慮する必要があります)。

[2] 保険料徴収が総報酬制になっただけで給付は一部従来のまま

これも総報酬制の盲点ですが、総報酬制になったからといって、全ての給付が総報酬制に対応したわけではないという点には注意が必要です。現在のところ、総報酬制に対応した給付は厚生年金による給付のみです(賞与から徴収された保険料も、将来の厚生年金額に反映されるようになりました)。

一方で、傷病手当金をはじめとする健康保険による給付は全て、従来と同じく、あくまで標準報酬月額を基準に支給され、賞与から徴収された保険料は一切反映されないことになっています。

したがって、保険料についての話とは全く逆に、年収が同額である場合、賞与割合が低く毎月の給与が高いほうが、もしもの時に従業員が貰える給付が多くなります。

最後に、これと付随して、今回の総報酬制において、ある意味で最大の盲点という点をあげます。

[3] 保険料が下がる場合、従業員本人の将来の年金額も下がってしまう

このページの文章は全て“経営者の視点”で書いてあるため、従業員の社会保険料が下がる⇒社会保険料の会社負担分が下がる⇒喜ばしいという表現をしていますが、従業員本人の将来の年金額を考慮すれば、そうも単純にいかないことが分かります。

多くの中小企業において、今回の総報酬制導入により社会保険料が下がることが予想されることは上記のとおりですが、それはすなわち、多くの中小企業の従業員において、将来の年金額が下がることを意味します(※注4)

(※注4)
将来、年金額を計算する際には、平成15年4月前とそれ以降で別々に計算することになるので、今まで払った分の評価額が下がるということは一切ありません。あくまで、今後も同額の保険料を負担する場合と比較した場合の話です。

このことは会社の社会保険料削減を考える際の永遠のジレンマであり、非常にデリケートな問題ですが、経営者としては、単に保険料の削減を考えるだけでなく、このことも常に念頭に入れておく必要があるかと思われます。

傷病手当金について

平成16年4月の厚生年金保険法改正について

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